毎日出てゐる青い空

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人類が向き合っている危機の正体

新井素子に『ネプチューン』という作品があります(「今はもういないあたしへ」に収録)。カンブリア期から時空の裂目を通って現代にやってきた生物が、人間の想いを受けついてカンブリア期に戻り、生物の爆発的な多様化が起きたというストーリーです。生物とは想いを持つ存在であるということを感じさせてくれる作品でした。 

 

 

こうして生物たちは想いを込めながら生きているわけですが、同時に多くの限界も持っています。マンボウは一度に3億個もの卵を産みながらも海がマンボウで埋め尽くされることはありません。ライオンなどの肉食動物も一度に数頭の子を産まなければ数を保てないほど脆弱な存在でもあります。高山植物が個体数を増やすために、世界中を寒い高山気候に変えてしまうという話も聞きません。

 

多くの個体が病気やケガ、捕食によって死んでいき、生殖能力がなくなればそれほどしないうちに死を迎える。飢えや気候変動によって生死が左右されもする。中には雨で一時的にできた水たまりに産み落とされるトンボの卵のように、生存できる可能性のない場所に産み落とされる命もあります。

 

生物たちはそのような限界の中で精いっぱい生きており、そのことが、生きることのすばらしさや生命の強さを教えてくれます。想いの強さは感動を産みます。

 

ところが、同じ想いの強さがヒトの能力と結びつくと、これまでの生物史ではありえなかった事態が生じます。ヒトは生きる想いを世界の大変革に結びつけることができる存在だからです。

 

ヒトは快適な空間を作ろうとしてすべての気候風土の場所に同じ住空間を再現しようとする存在となり、病気を治し、病原菌を殺し、害獣を追い払うことのできる存在になりました。森を破壊し、大地を掘り返し、山を切り崩し、川を固めながら、「想い」を現現実化していきました。

 

生物を進化させ、地球上を生命のあふれる場所に変えてきた「想いの強さ」がヒトの能力と出会ったとき、限界を次々に取り払っていくことで、これまでにない種類の危機が生じました。

 

私たちは、生物の原動力となってきた想いの強さを生物自らが制御して破壊を食い止めながら、しかし、この原動力によって繋がってきた命を終わらせるのではなく、この先も繋げていくという、途方もなく困難な課題を突き付けられているのです。

 

自分自身や愛する家族の健康長寿、快適な暮らしを望みながら、能力を自ら封じて命を運命に任せ、死にゆだねることができるかどうか。人類は今そのような困難な問いを投げかけられている存在になったのでした。

 

 

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