毎日出てゐる青い空

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生きること自体が不合理なのだ

『人間に未来はあるか』は、現代をBiological time bombといい、時限爆弾が爆発するように生物学に基づいた科学技術の発展が爆発的に進み出す時期がまもなくくるところで、どのように対処すればよいのかを問うている。

 

たとえば、何十年も前に死亡した男性の精子を使って人工授精によって誕生する子どもをどう扱えばよいのかとか、感情や思考を外部から操作することに対してどう対処すればよいのかという問いである。

 

現実の世界でも、この本で問題にしていたような問題が出初めている。

・整形美人・美男は結婚詐欺といえるのか。

・精神を病んで整形を繰り返す人に対して、要求されるままに整形手術を施すことは許されるのか。

向精神薬の多用は、人の感情の操作を既に実現してはいないか。

・体型がくずれることを嫌って出産や母乳による育児を避けることは生物的危機ではないか。

・帝王切開や出産直後のビタミンK注射など、人類はもう自然な出産ができなくなっていきつつあることの証拠ではないか。

 

動物たちの様子や、動物に近い生活を送る狩猟採集者たちの生活と、私たちの生活とを比べてみたときに、明らかになるのは、生きるということ自体が非人道的で、人権という考えにそぐわないという事実である。

 

私たちは肉体なくしては存在できず、肉体がなければ感情も生れず、記憶もなく、思考もない。肉体は鍛えなければ衰え、生殖を経なければ死滅する。生物は互いに依存し合い、したがって喰い食われたり、寄生されたり、争ったりもする。そのような環境にうまく適合して、相互依存を許す生物だけが生き残る。

 

ヒトが上記のような医療行為を続けていった先にあるのは、奇妙な世界である。

・短命になりがちな男という性を排除するかもしれない。

・妊娠出産の危険を回避するために人工子宮による出産が普通になるかもしれない。

・出産直後から医療機器を装備して一生を送ることになるかもしれない。

・感情の調整を体に装着した機器を通じて行うようになるかもしれない。

・思考もまた外部から制御されることになるかもしれない。

・記憶のメカニズムが解明されて肉体の外部に記憶装置を持つようになるかもしれない。

・体のほとんどを人工臓器に入れ替えて生きることになるかもしれない。

 

私たちが考えなければいけないのは、「文化的な生活」、「人権尊重」、「福祉の充実」という言葉と、本来危険で不衛生で不平等な生物の世界とは相いれず、前者を追究していけば私たちはもう存在する意味をなくしてしまうのだという事実である。

 

文明の恩恵などなさそうな生き方をしている人々の暮らしと、私たちの暮らしを比べたときに見えてくるのは、私たちが、もうかなりの程度まで、存在意義を失ってしまっているということである。それは、私たちが生物として生きることを許さなくしている価値観によって法が作られ社会が作られるようになったからであり、その傾向が強まったのは西洋発の世界システム*が覆い尽くして以降である。

 

私たちは世界システムが用意した学校教育やマスメディアによって価値観を植え付けられてしまったために、生命とはどのようなものであるのかを問う機会を奪われ、私たちが生命であることもときとして忘れ去って生きるようになってしまった。

 

それ自体が不合理な生命を生きるには、生命に囲まれて、生命としての活動に専念していくしかないのだと思えるのだ。

 

* 

 

書評 『世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界』

 

 

 

 

 

 

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