エリートビジネスマンと、槍でシシを狩った石器時代の男
その男は、
生物としての宿命に従って死を迎える。
一人の男は、最高の医療を受けて、
助からないはずがないと信じながら死んでいく。
彼の瞼の裏には、成功を得るために
犠牲にしてきた日々が浮かぶ。
努力の末に得たはずの地位は
彼に虚しさや焦りを与えただけで、
胸を躍らせたビジネス上の成功は
何の意味も持たないことに
彼は気づきながら死んでいく。
もう一人の男は、思わぬ大怪我を負い、
死を悟って受け入れていく。
彼の瞼の裏には、時の経過も知らずに
楽しくすごした日々が浮かぶ。
飢えや寒さ、高熱に耐えた日々も
いつしか楽しい思い出として残っている。
知恵と体力と技能を磨いて
ようやく仕留めたシシは
彼の心の中で
なつかしい仲間のように変化している。
動物のいない集落に暮らし、
アスファルトの道や
電飾に飾られた庭園を歩きながら
こんな空想に私は生きている。